沢木耕太郎の「流星ひとつ」を読んだ。刊行当時から知ってはいたが、藤圭子とのインタビューを起こした本? ふーん、と思っていたのでスルーしていた。
いくら本を読んでいても僕は見る目がないと思うのが、こういう本を見逃していたことに気がついた時だ。
沢木耕太郎と藤圭子がバーでウォッカライムを飲みながら話した内容がそのまま(もちろん編集はしているのだろうが)文章に起こしてあるという構成で、極めて実験的な作品だ。
藤圭子は僕が小学生から中学生にかけてが全盛期で、「圭子の夢は夜開く」はもちろん知っていたけど、小学生にとってそれはあまりに暗く、大人の歌でそれ以上興味をひくものではなかった。
ほとんど藤圭子についての予備知識なしで読み始めて、藤圭子のあまりに率直な、引退を決めた事情や、元夫の前川清などに対する評価や想いに驚く。引退間近に収録されたとはいえ、一世を風靡した大スターが初対面のインタビュアーにこんなことを話していいのか。沢木耕太郎が予想される影響の大きさにこの本の刊行を見送り、彼女に私家版として渡して封印したのも理解できる。
この対談の34年後、藤圭子は長年患った精神の病の果てに自死するわけだが、これほど頭がよく、神経が細かく、かつあけっぴろげな人が芸能界で10年を過ごしたのはものすごく辛かっただろうし、迷い迷って闇の奥に足を踏み入れてしまったのも、本当の原因は他人には理解の外とはいえ、頷ける。
読み終わったあとにYouTubeで、TV番組での歌唱を中心とした追悼番組を見たが、その美貌と歌唱力に圧倒された。喉の手術をした後は声が変わってしまって自分で納得がいかず、それが引退の原因だとのことだが、「8時だよ、全員集合」のコントの合間に、土曜の夜の家族団欒の場に、こんなものすごい歌が流れるなんて、と当時僕もTVの前にいたのだろうが、いまさらながら呆然とした。

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